相続税は現金一括が原則
見落とされやすい点です。相続税は、原則として現金で一括納付します。
遺産が預貯金中心であれば問題になりません。しかし、遺産の大半が実家の不動産で、現金がほとんどないというケースでは、納税資金そのものが足りなくなります。
しかも申告・納付の期限は、相続開始を知った日の翌日から10か月です(親が亡くなった後の手続き、期限の一覧)。この期間で不動産を売却して現金化するのは、簡単ではありません。
この状況に対して、延納(分割払い)と物納(物で納める)という制度があります。
まず、そもそも課税されるのかを確認する
制度の話に入る前に、本当に相続税がかかるのかを確認してください。
- 基礎控除:3,000万円+600万円×法定相続人の数(親が亡くなった後の手続き、期限の一覧)
- 小規模宅地等の特例:実家の土地が330㎡まで80%減額(実家の土地の評価が8割減る「小規模宅地等の特例」)
- 配偶者の税額軽減:1億6,000万円または法定相続分相当額まで(配偶者は1億6,000万円まで相続税がかからない)
特例を適用すれば納税額が大きく下がる、あるいはゼロになることは珍しくありません。ただし、特例は申告して初めて適用されます。 まずここを税理士に試算してもらってください。
延納:分割払いにする
国税庁が示す延納の要件は、次の4つをすべて満たすことです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 税額 | 相続税額が10万円を超えること |
| 納付困難な事由 | 金銭で納付することを困難とする事由があり、その困難とする金額の範囲内であること |
| 担保 | 延納税額および利子税に相当する担保を提供すること |
| 期限 | 納期限または納付すべき日までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長へ提出すること |
担保には例外があります。 延納税額が100万円以下で、延納期間が3年以下の場合は、担保は不要とされています。
担保として認められるのは、国債・地方債、有価証券、土地、建物、立木、登記船舶(保険付き)、財団、確実な保証人の保証などです。
注意点は2つ。
「金銭で納付することを困難とする事由」が要件である以上、手元に現金があるのに分割にしたい、という理由では通りません。 納付できる分は納付したうえで、困難な部分についてのみ延納する形になります。
利子税がかかります。 分割払いである以上、期間に応じた負担が生じます。総額でいくらになるかを試算してから選んでください。
物納:物で納める
延納でも金銭納付が困難な場合、物納という選択肢があります。国税庁が示す要件は次のとおりです。
1. 延納によっても金銭で納付することが困難である事由があること
2. 納付すべき相続税額の課税価格計算の基礎となった、日本国内に所在する相続財産であること
3. 管理処分不適格財産に該当しないこと
4. 納期限までに物納申請書と関係書類を税務署長へ提出すること
「延納でも困難」という順序が要件になっている点に注意してください。いきなり物納を選べるわけではありません。
物納に充てられる財産には順位があります。
| 順位 | 財産 |
|---|---|
| 第1順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等 |
| 第2順位 | 非上場株式等 |
| 第3順位 | 動産 |
後順位の財産は、税務署長が特別の事情があると認める場合、および先順位に適当な価額のものがない場合に限って充てられます。
つまり、不動産があるなら、まず不動産が対象になります。「実家は残して、他のもので納めたい」という選択は、原則としてできません。
書類の提出期限には延長の仕組みがあります。 物納手続関係書類提出期限延長届出書を提出することで、1回につき3か月を限度として、最長1年まで延長できるとされています。審査期間は申請から3か月以内(最長9か月まで延長されうる)です。
「管理処分不適格財産」に注意
物納で最大の壁がここです。国が管理・処分するのに適さない財産は、物納に充てられません。
境界が明確でない土地、権利関係に争いがある土地、担保が設定されている財産、建物と敷地の所有者が違う——こうした事情があると、物納は認められにくくなります。
相続土地国庫帰属制度の却下要件と発想が似ています(いらない実家の土地を国に引き取ってもらう)。国は、管理に困る不動産を引き受けません。
したがって、「売れない土地だから物納すればいい」という考え方は、多くの場合成り立ちません。 売れない理由(境界不明、接道なし、権利関係の複雑さ)が、そのまま物納の障害になるためです。
現実的な進め方
1. まず特例を適用した試算をする。 納税額がいくらになるか。ここが出発点です。
2. 納税資金の目処を確認する。 手元の現金、生命保険金(生命保険金は相続財産ではない)、預貯金の払戻し(親の銀行口座が凍結された)。
3. 足りないなら、選択肢を並べて比べる。 売却、延納、物納、金融機関からの借入。それぞれの総コストを比較してください。 延納の利子税と、借入の金利を比べることになります。
4. 期限から逆算する。 延納も物納も、納期限までの申請が要件です。 「払えないから待ってもらおう」ではなく、「払えないので申請する」という手続きです。期限を過ぎると延滞税がかかります。
5. 税理士に相談する。 要件の判定も、書類の準備も、専門的です。納税資金が不安だと感じた時点で相談してください。
よくある質問
# Q. 実家を売れば払えますが、住み続けたいです。
延納が選択肢になります。 ただし担保と利子税の負担があります。総額を試算して、売却と比較してください。配偶者であれば配偶者居住権という制度もあります。
# Q. 期限までに間に合いそうにありません。
未分割のままでも申告はできます。 その場合、配偶者の軽減や小規模宅地等の特例は原則として使えませんが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出することで、後から適用を受けられる場合があります。まず期限内に申告してください。
# Q. 物納すれば税金の分だけ土地を渡せばいいのですか?
財産の価額は相続税評価額で計算されます。 市場価格とは異なるため、「損か得か」は個別に試算が必要です。
# Q. 延納の途中で払えなくなったら?
一定の要件を満たせば、物納への変更が認められる仕組みがあります。ただし条件があるため、税務署または税理士に確認してください。
