まず、期限のある手続きだけを並べる
親が亡くなった後にやることは膨大に見えますが、「期限があるもの」と「いつでもできるもの」を分けると、急ぐべきものは多くありません。
期限があるものだけを順に並べると次のようになります。
| 期限 | 手続き | 根拠・窓口 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届の提出 | 戸籍法86条/市区町村 |
| 10日以内(厚生年金)<br>14日以内(国民年金) | 年金受給権者死亡届 | 日本年金機構 |
| 14日以内が目安 | 世帯主変更、国民健康保険・介護保険の資格喪失 など | 市区町村(自治体により案内が異なる) |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 民法915条/家庭裁判所 |
| 4か月以内 | 準確定申告 | 国税庁/税務署 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 国税庁/税務署 |
| 3年以内 | 相続登記の申請 | 不動産登記法/法務局 |
起算点が手続きごとに違う点に注意してください。「亡くなった日」から数えるものと、「相続の開始があったことを知った日」から数えるものが混在しています。
最初の1〜2週間:役所で完結するもの
死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に提出します(国外にいるときは3か月以内)。死亡診断書または死体検案書を添付し、本籍地または所在地の市区町村に届け出ます。実務上は葬儀社が代行することが多い手続きです。
年金は、日本年金機構にマイナンバーが収録されている場合、死亡届の提出自体は原則不要です。ただし未支給年金の請求は別途必要です。亡くなった月分までの年金で受け取っていないものは、生計を同じくしていた遺族が請求できます。この請求権は5年で時効消滅するので、忘れずに手続きしてください。
世帯主変更・健康保険・介護保険などの市区町村の手続きは、おおむね14日以内が目安とされていますが、必要な手続きは世帯構成によって変わります。多くの自治体に「おくやみ窓口」が設置されており、必要な手続きをまとめて案内してもらえます。 何が必要かを自分で調べるより、窓口で一覧にしてもらうほうが早く確実です。
3か月:ここだけは取り返しがつかない
相続放棄・限定承認の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月です(民法915条)。
この期限が他と違うのは、過ぎると選択肢そのものが消える点です。他の手続きは遅れてもペナルティや手間で済みますが、相続放棄だけは「あとで気づいた」が通りにくい。
さらに重要なのは、期限を待たずに選択肢を失うことがあるという点です。民法921条により、相続財産を処分すると単純承認したものとみなされ、以後は相続放棄ができなくなります。遺品や家財を片付けて処分する行為が、これに当たる可能性があります。
つまり、片付けを始めるタイミングは、この3か月の判断と切り離せません。 詳しくは相続放棄を考えているなら、遺品整理より先に確認することを確認してください。片付け中に現金や通帳が出てきた場合の扱いは片付け中に現金・通帳・貴重品が出てきたらにまとめています。
判断がつかない場合、家庭裁判所へ期間伸長の申立てをするという選択肢があります。「分からないまま3か月が過ぎる」のが最も避けたい結末です。
4か月:準確定申告
故人に確定申告が必要な所得があった場合、相続人が代わりに申告します。これを準確定申告といい、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内です。
相続人が複数いる場合は、連署で1通提出するか、各自が別々に提出します(別々に出した場合は他の相続人への通知義務があります)。
該当するかどうかの判断は所得の内容によります。故人が自営業だった、不動産収入があった、年金以外の収入があった、といった場合は税務署または税理士に確認してください。
10か月:相続税
相続税の申告・納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。
ただし、遺産の合計が基礎控除以下であれば申告は原則不要です。国税庁が示す基礎控除額は次のとおりです。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人が2人なら4,200万円、3人なら4,800万円です。実家の不動産評価額を含めて超えるかどうかが分かれ目になるため、家がある場合は早めに見当をつけておくと安全です。
3年:相続登記(2024年4月から義務)
見落とされやすいのがここです。令和6年(2024年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。
相続で不動産を取得した相続人は、相続の開始と所有権の取得を知った日から3年以内に登記を申請する義務があります。正当な理由なく申請しない場合、10万円以下の過料の対象になります。
施行日より前に発生した相続にも適用されます。 2024年4月1日より前に相続を知っていた不動産で未登記のものは、令和9年(2027年)3月31日までが期限です。「昔のことだから関係ない」ではありません。
遺産分割がまとまらず3年以内の登記が難しい場合は、相続人申告登記という簡易な手続きで義務を果たすことができます。詳しくは実家を相続したら空き家のまま放置してはいけない理由もあわせて確認してください。
期限のない手続きと、片付けの位置づけ
遺品整理そのものに法律上の期限はありません。 賃貸物件の明け渡しなど契約上の期限がある場合を除けば、急ぐ理由は本来ありません。
にもかかわらず片付けを急いでしまうのは、「やらなければいけない気がする」からです。しかし前述のとおり、急いで処分することが3か月の選択肢を潰す場合があります。
順番としては次のようになります。
1. 期限の短い役所の手続きを済ませる(7日〜2週間)
2. 財産と負債の全体像を確認する(調べるだけなら処分に当たりません)
3. 相続するかどうかを決める(3か月)
4. 決まってから、片付けの手順に入る
片付けを何から始めるかは実家の片付け、何から始める?、費用の考え方は遺品整理の費用はなぜ業者ごとに違うのかにまとめています。
よくある質問
# Q. 手続きの数が多すぎて何から手をつければいいか分かりません。
市区町村の「おくやみ窓口」を最初に使ってください。 世帯構成に応じて必要な手続きを一覧にしてもらえます。自分で調べるより早く、漏れも少なくなります。
# Q. 期限を過ぎてしまった手続きはどうなりますか?
手続きによって扱いが違います。役所の届出は遅れても受理されることが多い一方、相続放棄は原則として選択肢が失われます。相続税は延滞税・加算税の対象です。過ぎたと気づいた時点で、それぞれの窓口や専門家に相談してください。
# Q. 遠方に住んでいて何度も帰省できません。
多くの手続きは郵送や代理人で対応できます。一度の帰省で何ができるかを、事前に窓口へ電話で確認しておくと効率が上がります。相続放棄の申述も郵送で可能です。
# Q. 相続人が複数いて連絡が取りづらい場合は?
期限は待ってくれません。連絡が取れない相続人がいる時点で、早めに弁護士・司法書士へ相談してください。 手続きが止まっている間も3か月・10か月は進みます。

