一人でも欠けると無効
遺産分割協議は、相続人全員でしなければ無効です。 一人でも参加していなければ、その協議は成立しません(遺産分割協議書は何のために作るのか)。
したがって、連絡が取れない相続人がいると、そこで手続きが止まります。
- 何十年も音信不通の兄弟がいる
- 疎遠な親族が代襲相続で相続人になったが、どこにいるか分からない
- 海外に出たきり、消息が分からない
「いないものとして進める」ことはできません。 ただし、進めるための制度はあります。
まず、住所を追う
「連絡が取れない」と「行方不明」は違います。 多くの場合、戸籍を追えば住所が分かります。
戸籍の附票には、その戸籍にいる間の住所の履歴が記録されています。相続人であれば、相続手続きに必要である旨を示して取得できます。
つまり、戸籍を遡って相続人を確定させる作業([相続人を確定させる戸籍集め](/posts/souzokunin-chousa-houtei-souzoku-jouhou))の延長で、住所まで辿れることが多いのです。
まずここをやってください。 「何十年も会っていないから分からない」は、調べていないだけであることがよくあります。
住所が分かったら、まず手紙を出してください。 突然の連絡になるので、状況を丁寧に説明する必要があります。相手にとっても寝耳に水であることを前提にしてください。
返事がない場合でも、送った記録は残しておいてください。 後の手続きで、連絡を試みた経緯として意味を持ちます。
それでも分からない場合:不在者財産管理人
住所を追っても居所が分からない、あるいは分かっても本人が現れない——この場合、不在者財産管理人という制度があります。
裁判所の説明によれば、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合、家庭裁判所は申立てにより、不在者自身や利害関係のある第三者の利益を保護するため、財産管理人選任等の処分を行うことができます。
選任された不在者財産管理人は、不在者の財産を管理・保存するほか、家庭裁判所の権限外行為許可を得たうえで、不在者に代わって遺産分割や不動産の売却等を行うことができます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てできる人 | 利害関係がある人(他の相続人など)、検察官 |
| 申立先 | 不在者の(従来の)住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 不在者1人につき収入印紙800円分+連絡用の郵便切手 |
注意点があります。
遺産分割をするには、別途「権限外行為許可」が必要です。管理人は財産を管理・保存するのが本来の役割で、分割に応じることは権限を超えるためです。
管理人には報酬が発生することがあります。 また、不在者の財産を管理し続ける必要があるため、選任の際に予納金を求められることがあります。費用の見込みを、申立ての前に確認してください。
そして、この管理は不在者が現れるまで続きます。 遺産分割が終われば終了、というものではありません。
生死不明が長期間続く場合:失踪宣告
裁判所の説明によれば、不在者について、その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、または戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇し、その危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)は、家庭裁判所は申立てにより失踪宣告をすることができます。
失踪宣告とは、生死不明の者に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。
申立てができるのは、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、財産管理人、受遺者など、失踪宣告を求めることについて法律上の利害関係を有する者)です。
失踪宣告がされると、その人は死亡したものとして扱われるため、その人の相続が開始します。 つまり、その人の相続人が、代わりに遺産分割に参加することになります。
重い制度です。 生存の可能性がある段階で軽々に選ぶものではなく、7年という期間の要件もあります。 どちらを選ぶべきかは、弁護士に相談してください。
期限は待ってくれない
手続きに時間がかかる一方で、相続の期限は進みます。
| 期限 | 内容 |
|---|---|
| 3か月 | 相続放棄(3か月で決められないときの「期間伸長」) |
| 10か月 | 相続税の申告・納付 |
| 3年 | 相続登記の申請義務 |
相続登記の3年について、行方不明の相続人がいることは免除の理由になりません。 ただし、遺産分割がまとまらない場合の逃げ道として「相続人申告登記」があります(相続登記は2024年4月から義務です)。義務違反の状態は避けられます。
相続税の10か月も同様で、未分割のまま申告するという対応が必要になる場合があります。 税理士に相談してください。
手続き全体の期限は親が亡くなった後の手続き、期限の一覧にまとめています。
早く動くほど楽になる
この類型は、時間が経つほど確実に難しくなります。
- 相続人がさらに亡くなり、その相続人が増える(実家の名義が祖父のまま)
- 記憶や記録が失われ、住所を追う手がかりが減る
- 空き家の管理責任だけが残り続ける(空き家を放置する具体的なリスク)
「連絡が取れないから、どうしようもない」と止まっているのが、最も損をする状態です。 制度は用意されているので、司法書士・弁護士に相談してください。
よくある質問
# Q. 住所は分かったが、返事をもらえません。
行方不明ではないため、不在者財産管理人の制度は使えません。 この場合、家庭裁判所の遺産分割調停という手続きになります。裁判所から呼出しがされます。
# Q. 手紙を出したら「関わりたくない」と言われました。
相続分の放棄や譲渡という形で、遺産分割から離脱してもらう方法があります。 ただし、これは相続放棄とは別物で、債務の責任は残ります(「相続放棄した」つもりが放棄になっていない)。本人が家庭裁判所で相続放棄をするのが最も明確です。
# Q. 費用はどのくらいかかりますか?
申立ての手数料のほか、管理人への報酬や予納金がかかることがあります。金額は事案によるため、申立ての前に家庭裁判所や司法書士に確認してください。
# Q. 何年も探していますが見つかりません。
生死不明が7年続いていれば、失踪宣告という選択肢があります。 ただし影響が大きい制度なので、弁護士に相談してから判断してください。
