相続人が一人もいない場合
次のような状況で起こります。
- 配偶者も子もなく、親も兄弟姉妹もすでに亡くなっている
- 相続人全員が相続放棄をした(相続放棄を考えているなら、遺品整理より先に確認すること)
- 戸籍を追っても相続人が見つからない
このとき、財産は宙に浮きます。 家も預貯金も、誰のものでもない状態で残ります。
放置すると、空き家として近隣に影響が出ます(空き家を放置する具体的なリスク)。債権者は請求先を失い、賃貸なら大家が困ります。
この状態を整理する制度が、相続財産清算人の選任です。
相続財産清算人とは
家庭裁判所が選任し、亡くなった人の財産を清算する人です。
やることは、おおまかに次の流れです。
1. 相続人がいるかどうかを、公告して確認する
2. 債権者や受遺者へ弁済する
3. 特別縁故者への分与を検討する(申立てがあった場合)
4. 残った財産を国庫に帰属させる
「誰も引き取らない財産を、法的に整理して終わらせる」ための手続きです。
裁判所が示す申立ての概要は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申立てできる人 | 利害関係人(債権者、特別縁故者、遺言執行者など)、検察官 |
| 申立先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料5,582円 |
| 主な書類 | 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、財産を証する資料(不動産登記事項証明書、預貯金の残高証明書など)ほか |
注意すべきは予納金です。 清算人が業務を行うための費用(報酬を含む)として、申立人が数十万円規模の予納金を求められることがあります。 財産が十分にあれば戻ることもありますが、先に持ち出しが必要という点は覚えておいてください。
「誰かがやってくれる」制度ではなく、「利害関係のある人が申し立てる」制度です。
特別縁故者:身近だった人が受け取れる場合
相続人ではないが、その人と特別に親しかった人が、財産の分与を受けられる制度があります。
該当しうるのは、たとえば次のような人です。
- 内縁の配偶者(法律上の婚姻をしていないパートナー)
- 事実上の養子として育てられた人
- 療養看護に努めた人(長年介護をしていた親族以外の人、知人など)
- その他、特別の縁故があった人
「特別の縁故」があったことを、家庭裁判所に認めてもらう必要があります。 記録が重要になります。介護の記録、生活を共にしていた証拠、金銭的な支援の記録など。
期限があります。 相続人を捜索するための公告期間が満了した後、一定の期間内に申し立てる必要があります。この期間を過ぎると、財産は国庫に帰属します。
清算の手続きが進んでいることに気づかないと、期限を逃します。 該当しそうな立場にあるなら、早い段階で弁護士に相談してください。
相続放棄をした人の管理義務
「全員が放棄したから、もう関係ない」——ここは注意が必要です。
民法には、相続放棄をした人であっても、一定の場合に財産の保存義務が残るという定めがあります。放棄した瞬間にすべての責任が消えるわけではありません。
実務上は、相続財産清算人が選任されて引き継ぐまで、という整理になります。 つまり、誰も申し立てなければ、いつまでも宙ぶらりんの状態が続きます。
空き家が近隣に危険を及ぼしている、といった状況では、放棄した相続人が対応を求められる可能性があります。 具体的な範囲は事案によるため、弁護士に確認してください。
他の選択肢と比べる
相続人はいるが、その土地を手放したいという場合は、別の制度があります。
相続土地国庫帰属制度は、相続した土地の所有権を国に帰属させる仕組みです(いらない実家の土地を国に引き取ってもらう)。ただし建物がある土地は却下され、審査手数料も返還されません。
相続放棄は3か月以内という期限があり、他の財産も一緒に手放すことになります。
相続財産清算人は、そもそも相続人がいない場合の制度です。混同しないでください。
| 状況 | 使う制度 |
|---|---|
| 相続人がいて、土地だけ手放したい | 相続土地国庫帰属制度 |
| 相続人がいて、全部手放したい | 相続放棄(3か月以内) |
| 相続人がいない/全員放棄した | 相続財産清算人の選任 |
よくある質問
# Q. 亡くなった叔母に身寄りがなく、私が葬儀をしました。財産を受け取れますか?
特別縁故者として申し立てられる可能性があります。 ただし相続財産清算人の選任と公告が先に必要で、期限もあります。早めに弁護士へ相談してください。
# Q. 誰も申し立てなければどうなりますか?
手続きは始まりません。 財産は宙に浮いたままで、空き家であれば管理されないまま残ります。債権者や近隣が困る状態が続きます。
# Q. 予納金が高くて申し立てられません。
財産の状況によって金額が変わります。 まず家庭裁判所や司法書士に、見込みを相談してください。債権者が複数いる場合、誰が申し立てるかの調整もありえます。
# Q. 相続放棄をしましたが、実家の管理を求められています。
放棄しても一定の保存義務が残る場合があります。 相続財産清算人が選任されるまでの扱いになるため、弁護士に相談したうえで、清算人の選任申立てを検討してください。
